為替デリバティブ取引


 為替デリバティブ取引とは,為替を対象にした金融派生商品です。
 特に問題となるのが通貨オプションクーポンスワップと呼ばれる取引です。

 2011年3月11日,金融庁より中小企業の為替デリバティブ取引の実態調査の結果の速報が公表され,それによると,2004年4月から2010年9月までに販売された中小企業向け為替デリバティブ契約数は6万3700件で,2010年9月末日現在,契約を保有する企業数は約1万9000社あるとのことです。
 これらの中小企業の多くが為替デリバティブ取引による損失を抱えているものと思われます。

 クーポンスワップとは,あらかじめ取り決めた条件で「通貨を交換する取引」です。この取引をベースに様々なオプションや特約がついて,通貨オプションと同じような取引に仕立て上げられています。

 以下,通貨オプションを前提に説明します。


 通貨オプション取引の典型的なパターンは,会社側がドルコール円プットオプションを買い,同時にドルプット円コールオプションを売るという取引です。

 オプション取引は,ある資産を対象にして,その資産価格の変動によって契約者同士が金銭をやりとりするゼロサムの取引です。
 ゼロサムとは,契約者の一方がこの取引によって利益を得た場合,もう一方の契約者はその金額だけ損失が生じるので,契約者同士の損益が相殺してゼロになる取引です。この取引では契約者がともに利益を得ることはありません。
 オプション取引を銀行と契約するということは,ゼロサムの世界で金融のプロである銀行と勝負することになるのです。それがわかっていたら,銀行と勝負する中小企業はないでしょう

 しかも,為替デリバティブ契約は,上記の会社側がドルコール円プットオプションを買い,同時にドルプット円コールオプションを売るという基本契約(プレインバニラ)に加え,以下の様な各種の複雑な仕組みの特約が組み込まれています(エキゾチックオプション)。

ノックアウトしたら契約終了という特約
 ノックアウト条件と呼ばれ,ノックアウト価格または消滅価格とよばれる,あらかじめ取り決めた価格に達した場合に契約が終了するという特約のことです。
 このノックアウト条件はドル高・円安方向のみに設定され,ドル安・円高方向には設定されていません。
 ドル高・円安になれば損失が生じるはずの銀行のリスクが限定されているのに対して,ドル安・円高になっても会社側の損失リスクは限定されないままなのです。つまり,このノックアウト条件を設定した特約で,リスクヘッジをしているのは銀行です。
 しかも,ノックアウトに達したかどうかの判定は銀行に委ねられています。
 このように,ノックアウト条件は,会社側ではなく銀行側のリスクヘッジ(銀行の損失すなわち会社の利益を減らす)とともに,銀行側の利益拡大すなわち会社の損失拡大という効果を及ぼします


デジタルオプション取引によるギャップレート
 デジタルオプション(バイナリーオプション)とは,為替レートがあらかじめ取り決めた価格(判定価格といいます。)に達した場合に,あらかじめ取り決めた一定金額が受け払いされるという,特殊なオプション契約です。

 プレインバニラのオプション取引(特約のないシンプルな構造のもの)では,公使価格は,オプションの権利義務が発生するかどうかを判定する判定価格であり,オプション権を公使する際の公使価格という二つの要素があります。
 しかし,ギャップレート特約のついたオプション取引では,公使価格から判定価格の要素だけを抜き出したトリガー価格が登場します。そして,トリガー価格でオプションの権利義務が発生するかどうかを判定し,公使価格でオプション権を公使します。
 ギャップレート特約の特徴は,為替レートがトリガー価格に達した途端に大きな損失が発生することです。
 通貨オプション取引では,プットオプションの売り取引のほうにギャップレートが設定されています。通常のプットオプションであれば,公使価格が判定価格なので,公使価格110円だとすると,為替レートが109円になれば1ドルにつき1円の損失ですが,ギャップレート特約の場合,判定価格の110円とは別に公使価格が設定されているので,仮に公使価格が120円だとすると,為替レートが同じ109円でも1ドルにつき11円の損失になります。
 このように,ギャップレートは,会社側ではなく銀行側のリスクヘッジ(銀行の損失すなわち会社の利益を減らす)とともに,銀行側の利益拡大すなわち会社の損失拡大という効果を及ぼします

買いより売りが膨らむレシオの仕掛け
 コールオプションの買い取引金額に対してプットオプションの売り取引の取引金額が2倍,3倍に設定されるという特約です。
 プットオプションの取引金額が多いので,ドル高・円安に進んだ場合に銀行側に生じる損失額に比べて,ドル安・円高に進んだ場合に会社側に生じる損失額は,レシオの倍率だけ多くなり,それだけリスクが高いということになります。
 このようにレシオを仕掛けることは会社側ではなく銀行側のリスクヘッジ(銀行の損失すなわち会社の利益を減らす)とともに,銀行側の利益拡大すなわち会社の損失拡大という効果を及ぼします

中途解約の禁止
 通貨オプション取引では,中途解約が原則禁止とされています。中途解約禁止,ノンキャンセラブルというのも一つの特約と考えることができます。 
 特約の一方の当事者である銀行は,いつでも市場を通じて反対取引を行い,自らのリスクをヘッジすることが可能ですが,会社はそのような市場での反対売買をできるわけもなく,結局,契約上のリスクから解放されるには中途解約しかありません。
 このように中途解約の禁止は,会社側ではなく銀行側のリスクヘッジ(銀行の損失すなわち会社の利益を減らす)とともに,銀行側の利益拡大すなわち会社の損失拡大という効果を及ぼします

 以上の様に,通貨オプションに付される特約は,会社側ではなく銀行側のリスクヘッジ(銀行の損失すなわち会社の利益を減らす)とともに,銀行側の利益拡大すなわち会社の損失拡大という効果を及ぼすものであり,不当であると考えられます。

 要するに,通貨オプション取引は,ドル高のリスクヘッジという化けの皮をかぶったコールオプションとプットオプションの複合取引であり,会社と銀行が対等の立場で勝負する(そうだとしてもヘッジ目的がなければ賭博ではないかともいえます。)ような外形をとりつつ銀行側に一方的に有利な,一つのプットオプションの売り取引と見なすことができます。

 オプションの売り手は,発生の不確実な事象に関する支払を負担することで,契約前に約束した一定の金銭を受け取ります。つまりオプションの買い手は,一定の金銭を支払うことで不確実性リスクを排除しており,オプションの売り手は,一定の金銭を受け取る見返りにその不確実性リスクを負っていることになります。
 オプションの売り手は,損失リスクを負うとともに不確実性リスクをも負うことになり,とてもリスクが高い取引を行っているわけであり,リスク取引の胴元を引き受けさせられた立場です。

 つまり,為替デリバティブの問題点は,リスクヘッジ目的がないのに,意に反して中小企業に対して丁半博打の胴元を引き受けさせた点にあるといえます。

 そのリスクによって,倒産の危機に瀕している会社が急増しているのです。

仕組債(デリバティブ取引)


 仕組債とは,債券の一種で,様々な条件(株価とのリンク,為替とのリンク,ノックイン・オプションの組み入れ,ノックアウト・オプションの組み入れ等)のもとで利金や償還条件が決まるものをいいます。

 1998(平成10)年12月の金融システム改革法による規制緩和以降,消費者に広告されて販売された。「オプション」の売りを組み込んだ複雑な仕組みのものであるうえ,株価水準により償還内容が変わるので株価操作の誘惑が業者側にあるなど,業者側と顧客の利害が対立する構造であることや,価格(金利設定)が消費者に不利であっても消費者には判断するすべがないなど,大きな問題のある金融商品です。

 経験したものでは,複数の株式の株価と10倍のレバレッジをかけてリンクするもので,そのうちのいくつかの銘柄がノックインすると,利金が無くなるどころか,元本も毀損し,容易に元本が0になるもの,早期償還条件を謳うものの,その実現は困難であり,実現しない場合には利金なく著しく長期間資金を拘束されるものなどがありました。

 仕組債の計算式は非常に複雑であり,どのように計算されるのかという計算方法を理解することだけでさえ,通常一般人では困難です
 仮に計算方法を理解したとしても,かかる計算方法に基づいて,どのような結果となるかを推測することはさらに困難です

 多くの仕組債は,投資というよりは賭博に近い,ハイリスクな商品であり,一方でリスクに見合わない小さなリターンを期待できるにすぎません。一般投資家がかかるリスクを理解してリスクを引き受けたうえで購入することは到底困難なものです


外国債(外債)


 外国債とは,①通貨,②発行場所,③発行者のいずれかが外国である債権のことで,外債と略してよばれます。

 経験したものでは,南アフリカランド債がありました。

 価格変動リスクや信用リスク,流動性リスクがあることは国内の証券の取引と同じですが,外国証券取引では為替リスクカントリーリスクがある点がことなります。また国内の証券に比べるとリスクに関する情報が入手しにくいというリスクもあります。組成時の根拠法が外国法なので商品性についても特有なものがあります。
 すなわち,外貨取引が普通なので,円に換算するレート変動による為替リスクが生じます。
 また,当該外国証券の発行体の状況を超えて,発行体の属する国や地域の政治・経済・社会状況の変化に影響されます。かかるリスクをカントリーリスクといいます。
 さらに,外国証券は各取引や個別銘柄の周知性が十分でなく,①商品情報,②価格変動情報,③トラブル処理情報についての情報量や情報原の点で,一般投資家による十分な投資判断が困難な商品といえます(情報リスク)。そこで外取規則上も情報開示(ディスクロージャー)の規定があります。

 高額の為替手数料によって利益が抑えられている一方,非常に高い為替リスクをはらんだ商品です
 一般投資家がかかるリスクを理解して,リスクを引き受けたうえで購入することは,到底困難なものです


投資信託


 投資信託と一般に言っても,その性質は多種多様です。

 バブル経済の時代には投資信託が預貯金よりも利回りのよい比較的安定的な商品と思われていた時期もありましたが,いわゆる金融ビックバンにおける関連法令の改正を通じて,投資信託では多種多様な商品が販売されるに至っています。なかにはリスク度のかなり高いものも販売されるようになってきています

 そのようなリスクの高い商品について,十分な説明・理解がないためにそのリスクを引き受けて取引をしていない場合が多くみられます。為替や株式の知識が必要な商品も少なくありませんが,投資信託の取引を行う一般投資家が為替や株式の知識を有するとは限りません。
 このような事態を避けるため,証券会社には顧客に対して十分な説明をし,理解を得させる義務(説明義務)がありますが,果たされていない場合も少なくありません

 また,投資信託の取引が,過当取引,無断売買等の違法行為の温床となっているケースも少なくありません


オプション取引


 デリバティブの一種であり,ある原資産について,あらかじめ決められた将来の一定の日又は期間において、一定のレート又は価格(行使レート、行使価格)で取引する権利(オプション)を付与・売買する取引です。 

 オプションを買った場合,転売をしない限り,権利を行使した方が有利な場合は権利を行使します。 コールオプション(あらかじめ定められた価格(権利行使価格)で権利行使時期に特定の商品を買う権利(買いの選択権))を買った場合は,価格が上昇して権利行使価格とプレミアム単価の合計額を上回った分が利益となります。
 プットオプション(あらかじめ定められた価格(権利行使価格)で権利行使時期に特定の商品を売る権利(売りの選択権))を買った場合は,価格が下落して権利行使価格からプレミアム単価を差し引いた額よりさらに下落した分が利益となります。
 権利行使をしても利益がない場合,権利を放棄することになります。したがって,オプションの買い手は,投資金額全額(=プレミアム=オプション料)を失うリスクがあります。反面差異額の場合でもすでに支出した金額(プレミアム)分だけ損をするにとどまります。
 オプションの売り手は,証拠金を積み,買い手からプレミアム(オプション料)を取得し,権利行使されなければそのすべてが利益となりますが,利益はそれに限定される反面,権利行使された場合の損失は,理論上は無限大です(ただし,時価にマイナスはないと考えれば,プットオプションの売りの損失は一定の限度があります。)。
 オプション取引には,有名なブラック・ショールズ公式というものがある。この考案者の一人であるマイロン・ショールズと検証をしたロバート・マートンは,この公式を評価されて後にノーベル経済学賞受賞している。この公式は,正規分布を前提として,確率分布に従って変動する資産価格について微分方程式を使って計算したもので,ボラティリティの値と取引条件等を入れるだけでオプションの価格を算出できるものである。

 以上を読んで理解できる人は殆どいないと思います。まず,仕組みが困難すぎるのです

 また,専門家はブラック・ショールズ公式という式を組み込んだコンピュータを駆使して取引を行うのに対し,消費者にはそのようなことはできませんし,もちろん,この公式を理解することも一般に困難です。
 この事実と情報量,分析能力の差を考慮すると,消費者(一般投資家)にとってのオプション取引は,兵器をもった人に素手で立ち向かうようなものであり,きわめて不公平な勝負にしかなりません

 そのため,適合性原則違反,説明義務違反が大きな問題となり得る(=損害賠償請求が認められることがあり得る)のです
 また,手数料稼ぎの過当取引も問題となり得る商品です。

 一般に証券会社を通じた日経225オプション取引の他に,銀行を通じた通貨オプション取引が問題となります。
 通貨オプション取引による被害は,クーポンスワップ取引による被害と併せて為替デリバティブ被害と言われているようです(上述のとおり)。


信用取引


 信用取引とは,「金融商品取引業者(・・・)が顧客(・・・)に信用を供与して行う有価証券の売買その他の取引」をいいます(金融商品取引法161条の2に規定する取引およびその保証金に関する内閣府令1条1項)。
 投資者が,有価証券の売買を行う際に,購入代金を証券会社から借りて株式を買い付け,または,売却株式を借りて株式を売却する取引です。すなわち,投資者が株式を購入する代金がなくとも,株式を買い付けることができるし,売却する株式がなくとも株式を売却することができるシステムです。

 現物株であれば,購入したときよりも値段が下がっても,いつまでに売却しなければならないという期限はないから,損が出ないところまで価格の回復を待つことができます。しかし,信用取引の場合には,弁済の期限が3ヵ月ないし6ヵ月に限定されているので,買った時よりも値段が下がっていて損失がでることがわかっていても,損失を覚悟で決済しなければなりません。期限を延ばそうとしても,いったんは精算し,また新たに引き上げをしなければなりません。このような期限制限があることが,利益を上げることを難しくさせる。信用取引を行う人の内8割が収支トントンか損をしているともいわれています。
 途中で株価が変動すれば,追証が発生し,追加の保証金を支払わなければならなくなます。この際に,損をして決済するか追加の保証金を入れて期限まで待つかは,難しい判断ですし,判断を誤れば損失が拡大することになります。損失が拡大すれば,最初に預けた保証金はもちろん追加の保証金も失い,さらには,差損金を支払うことにもなります。
 投資資金との関係でみると,現物株取引に比べて手数料の割合が高くなります
 証券マンの中には,一定の資産をもつ投資者に対して,すでに保有している現物株等を保証金代用有価証券にすることによって,取引金額に比べると少ない現金で取引が可能な信用取引で大きな取引を勧め,短期間で売り買いを繰り返し,株式売買手数料を稼ぐ者もおり,手数料稼ぎのための回転売買の温床ともなっていると言われています。

 このような性質から,適合性原則違反,説明義務違反のみならず,過当取引や無断取引が問題となることも少なくありません



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